電波はなぜ「周波数帯域」で用途が違うのか——長い波は遠くへ、短い波はたくさん運ぶ

電波はなぜ「周波数帯域」で用途が違うのか——長い波は遠くへ、短い波はたくさん運ぶ 技術

潜水艦に指令を送る電波と、スマートフォンの5Gが使う電波は、どちらも同じ「電波」です。なのに、前者は波長が数十キロメートルの超長波、後者は波長がミリ単位のミリ波。桁が10個ちがう、まるで別物のような周波数を使い分けています。なぜ、用途によって周波数帯がこれほどきっちり分かれているのか。

答えは、波の長さが電波の「性格」を決めてしまうからです。長い波と短い波では、飛び方も、運べる情報の量も、壁の越え方もまるで違う。その違いがわかると、AMラジオが夜だけ遠くの局を拾える理由も、5Gがわざわざ2種類の周波数を抱えている理由も、同じ一つの理屈でつながって見えてきます。

長い波と短い波

電波は電磁波の一種で、国際的には3kHzから3THz(テラヘルツ)までをそう呼びます。光と同じ速さで進むので、1秒間に振動する回数=周波数が高いほど、波一つ分の長さ=波長は短くなります。周波数と波長は、片方が上がればもう片方が下がる、シーソーのような関係です。

波長が長い(周波数が低い)電波ほど、障害物の裏側へ回り込みやすく、遠くまで届きます。地形や建物に邪魔されにくい。そのかわり、一度に運べる情報の量は少なくなります。逆に波長が短い(周波数が高い)電波は、まっすぐ進んでたくさんの情報を一気に運べますが、直進するぶん壁や雨や木の葉にあっさり遮られてしまいます。「遠くへ届く」と「たくさん運ぶ」は、同時には手に入りません。

夜、遠くのAM局が入るわけ

この「遠くへ届く」性質を、いちばん劇的に見せてくれるのがAMラジオです。

AMラジオが使う中波は、昼間はせいぜい近場までしか届きません。ところが夜になると、ふだん聴けない遠くの局が急に入ってくる。子どものころ、これを不思議に思った人は多いはずです。種明かしは、上空にあります。

地上から60kmより上には、太陽の光で空気の一部が電気を帯びた「電離層」が広がっています。NICT(情報通信研究機構)の宇宙天気予報の解説によれば、電離層は電子の密度ごとにD領域・E領域・F領域に分かれ、高度およそ60kmから1000km以上にまでおよびます。このうち昼間だけ、高度60〜90kmあたりにD層ができます。

北海道総合通信局のAMラジオ受信講座は、昼夜の差をやさしく説明しています。昼間のD層は中波を吸収してしまうので、遠くへ届かない。ところが日が沈むとD層は消え、中波はその上のE層ではね返されて、地表との間を何度も跳ねながら遠くへ伸びていきます。夜だけ遠くの局が入るのは、このD層が消えるからです。

もっと派手に電離層を使うのが、短波(HF)です。短波はD層もE層も突き抜け、さらに上のF層で反射します。条件がそろえば、F層と地表の間で何度も跳ね返りながら、地球の裏側、約2万キロ先まで届くこともある。国境を越える短波の国際放送やアマチュア無線が成り立つのは、この高い空の鏡のおかげです。ただし、この反射は安定したものではありません。大きな太陽フレアが起きると、X線でD層の吸収が一気に強まり、短波通信がしばらく途絶する「デリンジャー現象」が起こることもある、とNICTは注意を促しています。電波の伝わり方が空の上の事情にここまで左右されるというのは、調べていて意外でした。

帯域ごとの顔ぶれ

電離層から地上へ視線を戻して、帯域を下から順に眺めてみます。

いちばん低い超長波(VLF、3〜30kHz)は、波長が10〜100kmにもなり、海水の中にもわずかに届きます。だから潜水艦への通信や、時刻を合わせる標準電波に使われます。長波・中波(LF・MF)はAMラジオや船舶・航空のビーコンに、短波(HF)は先ほどの国際放送に使われる。ここまでが「遠くへ届く」組です。

周波数を上げて超短波(VHF、30〜300MHz)と極超短波(UHF、300MHz〜3GHz)に入ると、距離と容量のバランスがよくなります。FMラジオ、テレビ、無線機、携帯電話、Wi-Fi、GPS。私たちの生活を埋めている無線のほとんどが、この一帯にひしめいています。サーキットデザインの無線技術解説によれば、この帯域はアンテナを数十センチに収められて壁での減衰も小さく、ほどよく回り込むため小電力の無線機に向いているそうです。

さらに上のマイクロ波(SHF、3〜30GHz)になると、まっすぐ飛ぶ性質が際立ちます。パラボラアンテナで一点に絞れるため、衛星通信や気象レーダー、Wi-Fiの5GHz帯がここに入ります。最上段のミリ波(EHF、30GHz以上)は波長がミリ単位で、莫大な情報を運べる反面、雨や障害物にめっぽう弱く、長く扱いにくい帯域とされてきました。

周波数は有限の資源

もっとも、向き不向きだけで自由に使えるわけではありません。電波は有限の資源です。同じ周波数を近くで2人が同時に使えば、混信して両方とも使えなくなります。

そこで世界では、国際電気通信連合(ITU)が大きな枠組みを決め、数年おきの世界無線通信会議(WRC)で各帯域の使い道を調整しています。日本は第3地域に属し、国内では総務省が周波数を割り当てる。どの周波数で、どれだけの電力で、いつ電波を出してよいかは、免許や規格でこまかく縛られています。サーキットデザインの解説も、電波を限りある資源と位置づけ、周波数ホッピングなどの技術で多数の機器を共存させていると説明しています。携帯電話の世代交代も、もとをただせば「もっと広い帯域をどこから工面するか」という取り合いです。

5Gが二つの周波数を使う理由

その取り合いがいちばん見えやすいのが、5Gです。

5Gは性格の違う二つの周波数帯を併用します。一つは6GHz以下の「Sub6」、もう一つが28GHz帯を使う「ミリ波」です。Sub6は従来のスマホ向け電波の延長で、そこそこ広い範囲に届きます。一方のミリ波は、4Gの何倍もの帯域幅を確保できるため桁違いに速い。けれど、これまで使いにくいとされてきたミリ波そのものですから、直進性が強く、壁や人体にあっさり遮られ、届く距離も短い。

だから5Gは、広いエリアをSub6で覆い、人が密集して大容量の要る駅やスタジアムには、ミリ波の基地局を点で置く、という使い分けをします。冒頭で並べた潜水艦の超長波とスマホのミリ波も、周波数帯の両端にいるようでいて、「遠くへ」と「たくさん」のどちらを取るか、という同じ物差しの両端にすぎません。

参考・出典

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