スマートフォンで動画を見る。車のラジオからニュースが流れる。空港のレーダーが雨雲を映す。これらはすべて「電波」を使っている。だが、同じ「電波」でありながら、ラジオとレーダーが同じ仕組みで動いているとは、あまり想像しにくい。
実際、電波には種類がある。正確には、電磁波のうち周波数が3kHzから3THzまでの範囲を「電波」と呼び(電波法による定義)、その広大な範囲を9つの帯域に区切って、それぞれ異なる用途に割り当てている。なぜ帯域によって用途が分かれるのか。それは、周波数が変わると電波の「振る舞い」そのものが変わるからだ。
波長が決める、電波の性格
電波の速度は光と同じ、秒速およそ30万kmで一定だ。そのため、周波数と波長は逆数の関係になる。振動数が少ない(周波数が低い)ほど波長は長く、振動数が多い(周波数が高い)ほど波長は短くなる。
この波長の違いが、電波の性質に決定的な差をもたらす。
波長が長い低周波の電波は、障害物を回り込みやすく、遠くまで届く。ただし、運べる情報量は少ない。一方、波長が短い高周波の電波は直進性が強く障害物に弱いが、一度に大量の情報を載せられる。つまり「遠くに届く」と「たくさん運べる」は、電波においてトレードオフの関係にある。
長波から短波へ——地球を覆う電波
周波数の低いほうから順に見ていく。
超長波(VLF、3〜30kHz)は波長が100kmから10kmにもなる。この電波は地表面に沿って広がり、低い山を越え、水中にまで届く。潜水艦との通信に使われるのはこのためだ。水は電波を吸収してしまうが、波長の極端に長いVLFだけは海中に浸透することができる。
長波(LF、30〜300kHz)と中波(MF、300kHz〜3MHz)になると、電離層との関係が出てくる。地上60kmから500kmの高度に存在する電離層は、電波を反射する性質を持つ。中波のAMラジオが昼間より夜間に遠くの局を受信しやすいのは、昼間に存在するD層(電波を吸収する)が夜間に消え、代わりにE層での反射が利くようになるからだ。夜の空気が変わったのではなく、空の高さで起きていることが変わっている。
短波(HF、3〜30MHz)は、さらに高度な電離層F層(200〜400km)での反射を利用する。F層で反射した電波は地表に戻り、地表で再び反射し、またF層へ——この繰り返しで、地球の裏側まで届く。インターネット以前、海外向けの国際放送が短波を使っていたのはこの性質によるものだ。ただし電離層の状態は太陽活動や季節・時刻によって変動するため、通信の安定性は高くない。
超短波・極超短波——現代の無線通信を支える帯域
超短波(VHF、30〜300MHz)になると、電離層をほぼ突き抜けてしまう。反射による遠距離通信はできなくなる代わりに、電波の性質は安定し、FMラジオや航空管制通信に使われる帯域となった。
極超短波(UHF、300MHz〜3GHz)は、現代の日常に最も深く入り込んでいる帯域だ。地上デジタルテレビ、スマートフォン(3G・4G)、Wi-Fi(2.4GHz帯)、GPSがすべてここに収まる。波長が10cmから1m程度になり、アンテナを小型化できるため、携帯機器との相性がよい。直進性が強まる分、障害物には弱くなるが、都市部での反射・回り込みを逆手にとった運用も可能だ。
スマートフォンがこれほど普及した背景には、UHF帯が「通信距離とデータ容量のバランスが取れた」帯域であることが大きい。より低い周波数は遠くに届くが情報量に限界がある。より高い周波数は大容量だが建物の中に届きにくい。都市型の移動通信には、UHF帯しかない、という制約がある。
マイクロ波、そして5G——高周波数帯への挑戦
マイクロ波(SHF、3〜30GHz)は直進性が非常に強く、見通し範囲内での通信に特化している。衛星通信、レーダー、Wi-Fi(5GHz帯)などに使われる。降雨により電波が吸収・散乱される「降雨減衰」が起きやすく、長距離の回線では10GHz以下の周波数が選ばれることが多い。
ミリ波(EHF、30GHz以上)は5Gの文脈で注目される帯域だ。日本では28GHz帯がモバイル通信事業者に割り当てられており、400MHz幅という広い帯域幅で超高速・大容量の通信が可能になる。しかし、波長がミリ単位になると電波は障害物はおろか、雨粒や水蒸気にすら吸収されやすくなる。2022年時点で日本の5Gの人口カバー率は9割を超えていたが、ミリ波については主要4キャリア全てで人口カバー率が0.0%という状況が続いていた。速さと届きにくさは、この帯域でもやはり表裏一体だ。
周波数帯域の割り当てを決めるもの
では、どの帯域をどの用途に使うかは、誰が、どのように決めるのか。
国際電気通信連合(ITU)がその役割を担う。ITUは電気通信分野における国際連合の専門機関であり、無線通信部門(ITU-R)が「無線通信規則(RR)」を定めている。電波は国境を越えて伝わるため、一国が勝手に使えば他国の通信に干渉する。そこで世界を3つの地域に分け(日本は第三地域)、各国が共通のルールのもとで周波数を使う枠組みが作られた。
この規則は「世界無線通信会議(WRC)」で定期的に改正される。3〜4年おきに開催され、衛星通信の拡大や5Gの周波数確保など、新技術の登場に合わせて割り当てが見直される。各国の主管庁がITUの枠の中で国内の割り当てを決め、日本では総務省がその役割を持つ。
電波は空気のように存在しているが、その使い方は国際的な取り決めの上に成り立っている。
整理すると
電波の周波数帯域と用途の対応を、大まかに整理する。
- 超長波(VLF):海中通信(潜水艦)、標準電波
- 長波・中波(LF・MF):AMラジオ放送、航空・海上ビーコン
- 短波(HF):電離層反射を利用した国際放送・遠距離通信
- 超短波(VHF):FMラジオ、航空管制、地上デジタルテレビ(旧帯域)
- 極超短波(UHF):地上デジタルテレビ、携帯電話(3G・4G)、Wi-Fi(2.4GHz)、GPS
- マイクロ波(SHF):衛星通信、気象レーダー、Wi-Fi(5GHz)
- ミリ波(EHF):5G(28GHz帯)、電波天文
分類が9つある中で、現代の民生用途のほとんどはUHFからSHFの範囲に集中している。限られた周波数資源に、膨大な通信需要が詰め込まれている。
周波数帯の「混雑」という問題
電波は有限の資源だ。同じ周波数を複数の送信源が同時に使えば混信が起きる。かつては帯域ごとに用途を分ければ済んでいたが、通信量の爆発的増加は新たな問題を生んでいる。
スマートフォン1台が動画ストリーミングで消費するデータ量は、20年前の音声通話とは桁が違う。4Gの帯域幅は最大20MHzだったが、5GのSub6(3.7GHz・4.5GHz帯)では100MHzに拡大し、ミリ波では400MHzまで広がる。道路で言えば、車線を増やし続けているようなものだ。
だが車線には限りがある。使われていない帯域を掘り起こし、既存の用途を再編しながら新しい使い方を作る——この作業は、技術の問題である以上に、国際交渉と法制度の問題でもある。
電波は目に見えない。しかし私たちの生活の裏側では、その地図をめぐる調整が絶えず続いている。
まとめ
電波の用途が帯域ごとに異なるのは、周波数が変わると電波の物理的な性質が根本から変わるためだ。低周波は遠くまで届くが情報量が少なく、高周波は大容量だが届きにくい。この基本的なトレードオフを踏まえたうえで、国際的な枠組みのもとで各帯域の用途が決められている。潜水艦の通信からスマートフォン、気象レーダーまで、すべては同じ電磁波の、周波数を変えた表情だ。
参考・出典
- 電気興業株式会社「取扱い周波数」 https://denkikogyo.co.jp/elec/frequency/
- 日本電業工作株式会社「第6回 電波の周波数|アンテナ博士の電波講座」 https://www.den-gyo.com/innovation/kouza/antenna/detail06.php
- 総務省 電波利用ポータル「ITU-R」 https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/inter/itu-r/
- 総務省 電波利用ポータル「世界無線通信会議とは」 https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/inter/wrc/wrcsum/index.htm
- Wikipedia「短波」 https://ja.wikipedia.org/wiki/短波
- Wikipedia「電波の周波数による分類」 https://ja.wikipedia.org/wiki/電波の周波数による分類
- ケータイ Watch「5Gでのミリ波利用への期待と現実」 https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/column/fujioka/1534182.html
- 総務省「5GMF白書 ミリ波普及による5Gの高度化」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000878153.pdf


