電車でもトラックでも、橋を渡るときに「落ちるかもしれない」と身構える人はほとんどいないと思います。けれど橋の上には、何十トンもの車両が次々に載り、橋そのものの重さも数千、数万トンとかかっています。それだけのものを宙に浮かせたまま、橋は平気な顔で立っています。
不思議なのは、橋が特別に頑丈な一枚岩でできているわけではない、という点です。鉄やコンクリートにも、ちぎれたり潰れたりする限界はあります。橋が落ちないのは、材料の強さで力をねじ伏せているからではありません。かかった力をうまく振り分け、どこへ流すかが設計されているからです。形そのものが、その振り分けの装置になっています。
押す力と引く力
橋にかかる力は、つきつめると2種類しかありません。押し縮めようとする圧縮力と、引き伸ばそうとする引張力です。
材料には得意・不得意があります。石やコンクリートは押されることに非常に強い一方、引っぱられると意外なほどあっけなく割れる。逆に鋼材は、引っぱりにめっぽう強い。橋を設計するというのは、ある意味で、それぞれの部材に「押される役」か「引っぱられる役」のどちらかをきれいに割り振り、苦手な力をなるべく受け持たせない作業でもあります。
鉄筋コンクリートは、その発想を一つの材料の中でやってのけた例です。圧縮はコンクリートが、引張は中に通した鉄筋が引き受ける。橋の形式が何種類もあるのも、もとをたどればこの「押すと引くの振り分け方」の違いに行き着きます。
アーチという古い答え
いちばん古い答えがアーチでした。
伸縮装置Naviのアーチ橋の解説によれば、まっすぐな桁は荷重がかかると真ん中が下にたわもうとします。ところがアーチでは、下向きの荷重が弓なりの曲線に沿って両端へ流れていき、部材にはほぼ圧縮力だけが働く。引っぱられる場面が出てこないので、引張に弱くても圧縮に強い石が使えます。だからローマ時代の石造アーチは、鉄筋もセメントもないのに、2000年たっても渡れるものが残っています。楔形に切った石を積み上げ、最後に頂上へ要石をはめると、互いに押し合ったまま一つの構造になる。接着しなくても、押し合う力だけで形が保たれる。
ただし、ただでは済みません。荷重を圧縮力に変えて両端へ流すぶん、その両端には、アーチを左右に押し広げようとする水平の力が生まれます。これを地面が受け止めきれないと、足元が開いてアーチは崩れる。アーチ橋に頑丈な岩盤やしっかりした橋台が要るのはこのためです。谷の両岸が固い岩でできた渓谷に石橋が多いのも、見た目ではなく、この押し返しを岩が受け止められるからでしょう。路面をアーチの上に載せるか下に吊るかで上路式・下路式と呼び分けますが、それも地形の都合で決まります。
三角形
鋼の時代になると、主役はトラスに移ります。
四角い枠は、押すと簡単にひし形へゆがみます。三角形は違う。辺の長さが決まると角度まで決まってしまい、形が変わりません。この性質を骨組み全体に行き渡らせたのがトラス橋です。三角形を連ねた骨組みでは、それぞれの棒が押されるか引っぱられるかのどちらかを受け持ち、棒を曲げる力はほとんどかかりません。曲げに比べて、押し引き(軸力)は材料を無駄なく使えます。細い部材を組み合わせるだけで、桁よりずっと長い距離を飛ばせる。
代表的なワーレントラスでは、上の弦が圧縮、下の弦が引張を担い、斜めの材は位置によって押し役と引き役が入れ替わります。橋を渡るとき窓の外に三角形の連なりが見えたら、その一本一本が押し引きを分担している骨組みです。
引っぱって支える
長い距離を一気にまたぐとなると、圧縮で支えるのはかえって不利になります。長い棒は押すと折れ曲がる(座屈する)からです。そこで発想を裏返したのが、引っぱりで支える吊り橋と斜張橋でした。
塔から斜めに張ったケーブルで桁を直接つり上げるのが斜張橋。塔の間に大きなケーブルを渡し、そこから垂らした多数のハンガーで桁を吊るのが吊り橋です。鋼は引っぱりに強いので、「引っぱられる専門」のケーブルに荷重を集めてやれば、信じがたいほど長い橋が架かる。斜張橋もいまでは1000メートル超の支間を持ちますが、1500メートルを超えるような超長大橋となると、実現できるのはいまも吊り橋だけです。
その極北が、神戸と淡路島を結ぶ明石海峡大橋です。JB本四高速の資料によると、全長3,911メートル、中央の支間だけで1,991メートル。3径間2ヒンジ補剛トラス吊橋という形式で、上部構造に使われた鋼材は、主塔・ケーブル・桁を合わせて19万トンを超えます。主塔は海面から297メートル。
橋を支えるメインケーブルは、いかにも頑丈な一本の太い綱を想像してしまいますが、中身は違いました。直径5.23ミリの細い鋼線を127本束ねてストランドを作り、それを片側290本集めて1本のケーブルにする。鋼線の数にすると、ケーブル1本でじつに3万6830本。直径5ミリほどの鋼線を数万本そろえ、引っぱりを分け合わせることで、あの巨大な桁が宙に浮いています。
この橋には、忘れがたい1メートルの来歴があります。計画では中央支間は1,990メートルでした。ところが工事の最中、1995年の兵庫県南部地震で主塔の立つ海底の地盤が動き、塔と塔の間隔がおよそ1メートル広がってしまう。結果として支間は1,991メートルに延び、全長も1メートル長くなりました。架けかけの橋が、地面ごと引き伸ばされたわけです。まだ作っていなかった部材の寸法を調整して間に合わせたと知ったときは、少し背筋が寒くなりました。2022年にトルコのチャナッカレ1915橋に抜かれるまで、世界最長の吊り橋であり続けた橋の、いちばん長い1メートル。
動くようにつくる
ここまでは「支える」話でした。けれど橋が落ちないためには、力を「逃がす」ことも同じくらい効いています。
橋は鉄やコンクリートでできているので、夏と冬で伸び縮みします。100メートルの桁なら、温度差で数センチ単位で長さが変わる。これを両端でがっちり固定すると、伸びる先のない力が内部にたまって、どこかが壊れます。だから橋は、わざと「動けるように」作られています。
伸縮装置Naviの橋の構造の解説では、路面より上の上部構造と、それを地盤へ伝える橋台・橋脚などの下部構造の境目に、支承と伸縮装置という部品が置かれます。支承は桁の重さを橋脚へ伝えつつ、桁の伸び縮みやたわみを受け流す。伸縮装置は、桁と桁の継ぎ目にわざと設けた隙間で、温度による伸縮を吸収します。車で橋を渡るときタイヤがコトンと鳴る、あの金属の継ぎ目がそれです。完全に固めず、少し動く余地を残しておく。地震の揺れをいなす免震の発想も、根はここにあります。
それでも橋は落ちた
橋が落ちない理由を知るには、落ちた橋を見るのがいちばんです。
1940年、アメリカ・ワシントン州にタコマ・ナローズ橋という吊り橋が完成しました。細身で優美な橋です。ところが開通からわずか4か月後の11月7日午前、それほど強くもない風のなかで、路面が大きくねじれながら波打ち、ついにちぎれて海へ落ちました。崩落の一部始終はフィルムに残り、いまも橋梁工学の教材として使われています。
ワシントン州交通局の記録によれば、原因は当初いわれた単純な「共振」ではなく、ねじれフラッターと呼ばれる現象でした。風が橋をわずかにねじる。ねじれたことで風の当たり方が変わり、その風がさらに橋を強くねじる。自分で自分を増幅していく揺れです。決定的だったのは桁の形でした。風を通すトラスではなく、側面を鋼板でふさいだプレートガーダー(板桁)だったため、風が桁を通り抜けられず、上下へ回り込んで渦を巻く。その渦が桁を揺さぶり、ねじれを増幅しました。中央支間に対して桁が極端に浅く、幅も狭く、ねじれに踏ん張る力も足りなかったのです。
タコマの教訓は痛烈でした。同局の解説は、当時の設計者たちが、19世紀に風で壊れた吊り橋の歴史をすっかり忘れ、軽く細い橋を競うあまり空気の力に盲点を抱えていた、と振り返っています。事故のあと、長大橋では模型を使った風洞試験が当たり前になりました。風に対する安定性を計算へ組み込み、桁を風が通り抜けやすい形にするか、ねじれに強い骨組みにするか、あるいは両方やる。明石海峡大橋の桁が、平らな板ではなく風を通すトラス構造で、毎秒60メートルから、塔では67メートル、想定では80メートルという猛烈な風にも耐えるよう設計されているのは、タコマがちぎれた日からまっすぐ続く工夫です。落ちない橋は、落ちた橋の上に立っています。
どこまでを見込むか
最後に、設計の段階で何を見込んでいるのか。
橋にかかる重さは、大きく死荷重と活荷重に分けられます。死荷重は橋そのものの自重、活荷重は車や人など、載ったり降りたりする動く重さです。土木学会の解説によると、設計で使う活荷重は「いま実際に走っている交通」そのものではなく、安全側に見積もった想定上の荷重として決められています。現実の渋滞より重い載り方を仮定しておき、それでも壊れないように造る。実際の大型車が通っても余裕が残るのは、はじめから現実より厳しい条件で計算しているからです。
さらに近年の橋は、ある部材が傷んでも全体が一度に崩れ落ちないよう、力の流れに逃げ道や予備を持たせます。冗長性と呼ばれる考え方です。「落ちない」とは、絶対に何も起きないという意味ではありません。想定を上回る力にもいくらか余白を残し、いざというとき粘れるように仕込んでおく、ということ。押す力はアーチや圧縮材へ、引く力はケーブルや鉄筋へ、伸び縮みは継ぎ目へ、風はトラスの隙間へ。橋は力をねじ伏せているのではなく、行き先を一つひとつ用意してやることで、落ちずに済んでいます。
参考・出典
- 土木学会 JSCE.jp for Engineers「橋梁設計における活荷重の考え方」 https://jsce.jp/pro/node/4277
- JB本四高速「明石海峡大橋|ブリッジワールド」 https://www.jb-honshi.co.jp/bridgeworld/bridge.html
- Washington State DOT「Tacoma Narrows Bridge|Lessons From the Failure of a Great Machine」 https://wsdot.wa.gov/tnbhistory/bridges-failure.htm
- 伸縮装置Navi「橋の構造【各部材の名称や役割、橋梁の種類を解説】」 https://jointnavi.net/joint/bridge-structure/
- 伸縮装置Navi「アーチ橋とは?【構造と仕組み、特徴や種類について解説】」 https://jointnavi.net/glossary/archkyou/
- Wikipedia(補助)「明石海峡大橋」 https://ja.wikipedia.org/wiki/明石海峡大橋


