ダムはどうやって水を「ためる」のか——力をどこへ逃がすかで、形が決まる

ダムはどうやって水を「ためる」のか——力をどこへ逃がすかで、形が決まる 技術

満水のダムは、背後に何百万トンもの水を抱えています。その水は、ただそこにあるだけで壁を押し続けています。なのに、コンクリートや岩を積んだ構造物が、びくともせずに立っている。考えてみると、これはなかなか不思議な光景です。

タネを明かすと、ダムは水を力ずくで「せき止める」壁ではありません。水が押してくる力を受け止め、それを壊れない場所へ「逃がして」やる装置です。そして、その力をどこへ逃がすか——自分の重さなのか、両岸の岩なのか、広い底面なのか。その答えの違いが、重力式・アーチ式・ロックフィルという三つの形を生んでいます。

水を止めるのではなく、力を逃がす

まず、ダムが相手にしている力の話から。水圧は深くなるほど大きくなります。水面近くではわずかでも、底のほうでは水の重みが積み重なり、桁違いの圧力になります。高いダムほど、下のほうで猛烈な力に押されているわけです。

この力をまともに踏ん張って止めるだけでは、いつか押し倒されてしまいます。そこでダムは、受けた力を基礎の地盤や両岸の岩盤へ送り込み、地球そのものに支えてもらいます。型式の違いは、煎じ詰めれば、その力をどこへどう伝えるかの違いです。

重力式

いちばん素直なのが重力式です。横から見ると三角形に近い台形で、ダム自身のずっしりした重さで水圧を押し返します。関西電力のダム解説でも、重力式は「ダム自体の重さで水圧を支える」型と説明されています。理屈が単純なぶん、地盤がそれなりにしっかりしていれば建てやすく、日本のコンクリートダムの約9割がこの型だといいます。弱点は、コンクリートを大量に使うことです。

アーチ式は岩盤しだい

アーチ式は、発想がまるで違います。上から見るとダムが上流側へ弓なりに湾曲していて、水圧の大部分を、堤体ではなく両岸の岩盤へ受け流します。力を岩へ逃がせるおかげで、堤体は驚くほど薄く、軽くできます。コンクリートも節約できます。

ただし、その力をすべて引き受ける両岸の岩盤が、よほど頑丈でなければなりません。関西電力の解説も、アーチ式は強固な岩盤が要るため「建設可能な地点は限定される」と但し書きを添えています。

積んで支えるロックフィル

三つ目のロックフィルは、コンクリートで固めるのをやめて、岩石や砂利、土を盛り立てます。札幌開発建設部の解説によれば、堤体の安定を受け持つのは主に大きな岩石で、水を通さないための遮水ゾーンを、中央のコアや上流側の表面に別に設けます。底面が広いので、重さを地盤に薄く広く分散できます。コンクリートダムには厳しい軟らかめの地盤でも建てられ、材料も現地で掘った岩や土を使えます。裏を返せば、近くに大量の石が採れる場所であることが条件になります。

その先駆けが、岐阜県の御母衣(みぼろ)ダムです。堤高131メートル、1960年完成の、日本初の大規模ロックフィルダム。電源開発(J-POWER)の解説によれば、建設当時は「東洋のピラミッド」とも呼ばれたといいます。なぜここがロックフィルだったのか。理由は、足元の地質にありました。このダムの直下では、1585年の天正地震で帰雲(かえりぐも)城が山ごと崩れ落ち、城主一族が一夜で滅んだと伝わります。それほど崩れやすい土地に、硬い岩盤を前提とするコンクリートの巨大ダムは向きません。砕いた岩を積むロックフィルが選ばれました。

186メートルを守った計算

地盤の良し悪しが、ダムの運命を左右します。それを世界に突きつけたのが、富山県の黒部ダムです。

黒部ダムは堤高186メートル、いまも日本一の高さを誇るアーチ式です。上から見ると弓なりに湾曲し、両翼に重力式の「ウイングダム」を従えた姿は、国際環境経済研究所の解説によれば「鳥が飛んでいるような形」と評されます。完成は1963年。けれど、その186メートルは、すんなり認められた数字ではありませんでした。

工事のさなかの1959年12月、フランスでマルパッセダムが決壊します。同じアーチ式で、満水になった16時間後に、左岸の基礎地盤が下流へずれて一気に崩れました。原因は、岩盤に挟まれた薄い粘土の層がすべり面になったことだとされ、死者は400人を超えています。アーチ式の安全神話が崩れた事故でした。

これを受けて、黒部ダムに融資していた世界銀行が再調査に乗り出します。そして翌年、両岸上部の岩盤強度に不安があるとして、堤高を36メートル下げるよう勧告しました。アーチ式の命綱はまさに両岸の岩盤ですから、岩が疑わしいなら低くして力を抑えろ、という理屈です。これに対し関西電力は、構造計算と岩盤の実験で堤体の安定を立証し、ワシントンとパリでの協議を重ねて、当初の186メートルを認めさせました。岩盤が予想より悪かった部分には、両翼に重力式のウイングダムを足して補っています。

なぜこの谷でこの形か

三つの型式は、見た目こそ違っても、やっていることは同じです。深い水が押してくる力を、自分の重さへ、両岸の岩へ、広い底へと、それぞれのやり方で逃がしています。どの形になるかは、設計者の好みではなく、その土地の地盤と地形が半ば決めてしまいます。次にダムを見上げる機会があれば、なぜこの谷でこの形なのか、足元の岩を想像してみると、少し違って見えるかもしれません。

参考・出典

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