電池はなぜ「切れる」のか——反応が終わるとき、電圧は落ちる

電池はなぜ「切れる」のか——反応が終わるとき、電圧は落ちる 技術

リモコンが効かなくなり、電池を取り替える。使い終えた電池は、見た目には何も変わっていません。重さも、形も、色も、新品とほとんど同じです。それなのに、もう電気を取り出せない。中身がどこかへ流れ出たわけでもないのに、電池はなぜ「切れる」のでしょうか。

この問いに答えるには、まず電池が電気をどうやって生んでいるのかを見ておく必要があります。

電池の中で起きていること

電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変える装置です。アメリカエネルギー省(DOE)はこれを、自発的に進む酸化還元反応からエネルギーを取り出す仕組みだと説明しています。

もう少しかみ砕きます。電池の中には、電子を出したがる物質と、電子を受け取りたがる物質が、別々の電極として入っています。電子を手放すほうが負極、受け取るほうが正極です。この二つを導線でつなぐと、負極から正極へ向かって電子が導線の中を流れる。この電子の流れが、電流として機器を動かします。Chemistry LibreTextsは、亜鉛と銅を使うダニエル電池を例に、負極で酸化、正極で還元が起こり、電解質の中ではイオンが移動して電気のかたよりを打ち消している、としています。

ここで一つ、混同しやすい点を押さえておきます。電子が流れるのは電極をつなぐ外側の回路であって、電池内部の電解質を流れるのはイオンです。電気を運ぶ担い手が、外と中で違う。この二つの流れがそろったときだけ、電池は電気を送り出します。

電圧はどこから生まれるのか

では、電池の「1.5ボルト」といった電圧は、どこから来るのでしょうか。

これは、二つの電極が電子を引きつける力の差から生まれます。物質ごとに、電子を出したがる・受け取りたがる度合いは決まっていて、これを数値化したものが標準電極電位です。基準となる水素電極をゼロと置いて測ると、亜鉛はマイナス0.76ボルト、銅はプラス0.34ボルトになる。この二つを組み合わせたダニエル電池の電圧は、その差をとっておよそ1.10ボルトになります。電池の起電力とは、要するに、選んだ二つの物質の「電子の欲しがり方」の差です。

面白いのは、この電圧が反応の進み具合で変わってくることです。電気化学にはネルンストの式という関係があって、Chemistry LibreTextsによれば、電極の電位は反応物と生成物の量のバランスで決まります。反応が進んで、もとの物質が減り、生成物がたまってくると、電位はじわじわと下がっていく。電池の電圧は、はじめから終わりまで一定ではなく、使うほど下がっていくのがふつうなのです。

反応が進むと、電圧が落ちる

ここまで来ると、乾電池が「切れる」仕組みが見えてきます。

電池が電気を送り出しているあいだ、電極では化学反応が休みなく進んでいます。反応の材料である活物質——乾電池なら亜鉛や二酸化マンガン——が少しずつ消費され、かわりに生成物がたまっていく。ブリタニカも、放電にともなって電池の中の活物質が消費されていくと述べています。材料が減り、生成物が増えれば、さきほどのネルンストの式にしたがって電圧は下がる。やがて電圧が、その機器を動かすのに必要な下限を割り込むと、機器は動かなくなります。これが「電池が切れた」状態です。

注意したいのは、切れた電池の中身が完全にゼロになったわけではない、という点です。反応が完全に止まる前に、電圧のほうが先に使いものにならない水準まで落ちる。乾電池でいえば、公称1.5ボルトの電池が0.9ボルトあたりまで下がると、多くの機器では役に立たなくなります。電池はからっぽになって切れるのではなく、電圧が足りなくなって切れる。ここは案外、直感とずれるところかもしれません。

反応をなめらかに進ませにくくする事情も重なります。電流をたくさん取り出そうとすると、電極の表面で反応が追いつかなくなったり、内部の抵抗が電圧を食ったりして、実際に取り出せる電圧はさらに下がります。

使わないのに、なぜ減るのか

引き出しにしまいっぱなしの電池が、いざ使おうとすると弱っている。これも多くの人が経験しているはずです。

パナソニックのFAQには、これを自己放電と呼び、電池を使っていなくても内部でわずかずつ化学反応が進んで電気が減っていく、とあります。反応は温度が高いほど活発になるので、暑い場所や湿った場所に置くと、自己放電は大きくなる。電池を涼しいところで保管したほうがもちがよいのは、このためです。

使い切った電池を機器に入れたままにすると液漏れする、というのも関係する話です。アルカリ乾電池の電解液は、水酸化カリウムを主成分とする強いアルカリ性の水溶液です。過放電や自己放電が進むと、内部でガスが発生するなどして、この液が外へにじみ出すことがある。だから、切れた電池は早めに抜いておきたいのです。

充電池は、なぜへたるのか

ここまでは使い切りの一次電池の話でした。電池工業会は、充電できずに使い切る電池を一次電池、充電して繰り返し使える電池を二次電池と分けています。では、その二次電池——スマートフォンやノートパソコンのリチウムイオン電池は、なぜ何年か使うと持ちが悪くなるのでしょうか。

充電池が「切れる」のは、一次電池とは事情が違います。充電すれば反応を逆向きに戻せるので、1回で使い切りにはなりません。かわりに問題になるのが、少しずつ進む劣化です。リチウムイオン電池の劣化を総説した2024年の論文(Batteries誌)によると、劣化の原因は一つではなく、いくつもの現象が重なって進みます。電極の表面に生じる被膜(SEI)が充放電のたびに育って、電気を運ぶはずのリチウムを取り込んで減らしてしまう。金属リチウムが電極に析出して回路を傷める。正極の材料そのものが、充放電の繰り返しで構造的に傷んでいく。こうした劣化が積み重なって、蓄えられる電気の量がじわじわ目減りしていきます。

劣化には、充放電を繰り返すことで進むものと、ただ時間がたつだけで進むものの両方があります。使っていなくても、年月とともに電池は少しずつ弱っていきます。どの劣化がどれだけ効くかは、温度や使い方でも変わってきます。

「起電力の限界」という言い方

電圧という言葉は、じつは場面によって別の数字を指しています。

標準電極電位から計算されるダニエル電池の1.10ボルトのような値は、標準状態での可逆的な起電力です。電池に電流を流すと、端子の電圧はこれより下がる。内部抵抗や反応の遅れ(過電圧)が食うぶんだけ、目減りするからです。逆に、電解液の濃度が標準状態と違えば、ネルンストの式にしたがって、起電力そのものが1.10ボルトから上下することもあります。1.10ボルトは動かせない上限ではなく、あくまで標準状態での目安と考えたほうが正確でしょう。

カタログに載る「公称電圧」は、また別の数字です。業界の慣行として定めた代表値で、Battery Universityの一覧では、乾電池が1.5ボルト、鉛蓄電池が1セルあたり2.0ボルト、リチウムイオンが1セルあたり3.6ボルト。同じリチウムイオンでも資料によって3.7ボルトと書かれることがあるのは、公称電圧がもともと「だいたいこのくらい」という代表値だからです。

理論上の電圧、無負荷で測った電圧、機器につないで実際に働くときの電圧——同じ電池でも、どの場面の話かで数字は変わってきます。

結局のところ、電池が切れるのは、電気を生む化学反応が終わったり偏ったりするからでした。ここで一つ、抜け道のような話があります。反応が終わって切れるのなら、反応の材料を外からずっと注ぎ込み続ければ、電池は原理のうえでは切れないはずです。それを実際にやってのけるのが燃料電池なのですが、その話はまた別の機会に。

参考・出典

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