半導体はなぜ「半」導体なのか——シリコンが世界を動かす理由

技術

スマートフォン、自動車、家電。私たちの暮らしを支える機械の中心には、ほぼ例外なく「半導体」が入っています。ニュースでも経済記事でも頻繁に登場する言葉ですが、改めて聞かれると説明に詰まる方も多いのではないでしょうか。

そもそも、なぜ「半」導体なのか。

電気を半分通すから半導体、と思われがちですが、実はそうではありません。名前の由来をたどっていくと、19世紀の不思議な実験から始まり、シリコンという一つの元素が世界を変えるまでの長い物語が見えてきます。

「半分通す」のではなく「中間にいる」

「半導体」は英語の semiconductor の訳語です。semi(半分)+ conductor(導体)。ここまでは分かりやすいのですが、問題はその「半分」が何を指すかです。

物質は電気の通しやすさで大きく三つに分けられます。電気をよく通す導体(銅や銀などの金属)、ほとんど通さない絶縁体(ゴムやガラス)、そしてその中間に位置するのが半導体です。つまり「半ば(中間に)位置する導体」という意味合いで、電気を物理的に半分だけ通すという意味ではありません。

ここで終われば、半導体は単に「中途半端な物質」ということになります。それならわざわざ名前を付けて区別する必要もないはずです。なぜこの中間の物質が、20世紀以降の文明の主役になったのでしょうか。

19世紀、ファラデーが見つけた「あべこべ」

話は1833年にさかのぼります。電磁誘導の発見で知られるイギリスの科学者マイケル・ファラデーは、硫化銀(Ag₂S)の電気の通り方を調べていました。

そこで彼は奇妙なことに気づきます。温度を上げると、電気がより通りやすくなったのです。

これは当時の常識からすれば奇妙な現象でした。銅や鉄といった金属では、温度が上がると電気は通りにくくなります。ところが硫化銀は、まるで逆の動きを見せた。ファラデー自身が著書で「金属に対する熱の影響とは直接的に対照をなす、たいへん奇妙なケースに最近出会った」と書き残しています。

これが、現在「半導体的な振る舞い」として知られる性質の、最初の記録です。

ただし、当時この現象に実用的な意味を見出した人はいませんでした。ファラデー自身も、自分が膨大な実験のなかで遭遇した一つの例外として扱っているにすぎません。発見から実用化までには、おおよそ100年の歳月が必要でした。

中途半端さこそが、便利だった

半導体の本当の面白さは、「混ぜもの」を入れたときに現れます。

純粋なシリコンはほとんど絶縁体に近い、電気の通りにくい物質です。ところがそこにごく微量——たとえば100万分の1ほど——のリンやホウ素を加えると、電気の流れやすさが劇的に変わります。リンを混ぜれば電子が増えてマイナスのキャリアが流れるn型に、ホウ素を混ぜれば電子が足りない正孔(ホール)が動くp型に変わる。

この処理を「ドーピング」と呼びます。

導体である金属は、いくら不純物を加えても性質を根本から変えることはできません。絶縁体も同じです。半導体だけが、混ぜものの種類と量を調整することで、絶縁体寄りにも導体寄りにも自在に変化する。さらに、性質の異なる半導体を接合すれば、電流を一方向にだけ流したり(ダイオード)、電気信号を増幅・制御したり(トランジスタ)できる。

「中間にある」ことは欠点ではなく、むしろ最大の武器だったのです。

トランジスタが発明されたのは1947年、アメリカのベル研究所でした。バーディーン、ブラッテン、ショックレーの3人による業績で、彼らはこの功績で1956年にノーベル物理学賞を受賞しています。真空管で部屋いっぱいの大きさになっていたコンピュータが、ここから一気に小型化への道を歩み始めました。

なぜ「シリコン」だったのか

半導体の材料には、シリコン以外にも候補がありました。初期のトランジスタはむしろゲルマニウムで作られていたほどです。それなのに、なぜシリコンが世界を席巻したのでしょうか。

理由はひとつではありません。

まず、資源が圧倒的に豊富です。シリコン(ケイ素)は地殻に2番目に多く存在する元素で、岩石や砂のなかに大量に含まれています。原料の心配がない。

次に、高純度化が可能であること。集積回路に使うシリコンには、99.999999999%(イレブンナイン)という途方もない純度が要求されます。ここまで純度を上げる技術が、シリコンでは確立されました。

そして決定的だったのが、酸化膜の作りやすさです。シリコンは酸素のある環境で加熱するだけで、表面に自然と二酸化ケイ素(SiO₂)の薄い膜を作ります。これがたいへん優秀な絶縁体で、回路の各部分を電気的に切り離すのに最適でした。MOSトランジスタ——現代のほぼすべての集積回路の基本素子——は、このSiO₂の薄膜を絶縁ゲートとして使うことで成り立っています。

ゲルマニウムは電子の移動度ではシリコンを上回るものの、高温で動作が不安定になりやすく、酸化膜も実用的な絶縁体になりません。1950年代後半、フェアチャイルド・セミコンダクター社がシリコン・メサ型トランジスタを開発したあたりから、半導体産業はゲルマニウムからシリコンへと一気に舵を切りました。

シリコンの「ちょうどよさ」が、半世紀以上にわたる主役の座を支えてきたわけです。

ここまでをひと息で振り返ると

整理してみます。

  • 半導体の「半」は、電気の通しやすさにおいて導体と絶縁体の中間に位置するという意味
  • 性質の変化は1833年にファラデーが硫化銀で観察したのが最初の記録
  • 中間にあることで、不純物を加えて電気の流れを精密に制御できる
  • シリコンが選ばれた理由は、豊富さ・高純度化・酸化膜の作りやすさという複合要因

「半」という地味な接頭辞の背後に、これだけの物語が詰まっていることになります。

中間にあるものが世界を動かす

考えてみると、半導体の話は他にも応用が利く視点を含んでいます。

導体は電気を通すしか芸がなく、絶縁体は通さないしか芸がない。両極端は、それぞれにとって自然な振る舞いをするしかありません。ところが中間にいる半導体は、わずかな条件の違いで「通す側」にも「通さない側」にもなれる。だからこそ制御できる。制御できるから、計算や記憶や通信といった複雑なことを実現できる。

中途半端であることが、むしろ高度な機能を生み出す土壌になった——半導体は、そういう面白い物質です。

シリコンに代わる材料の研究も進んでいます。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)は、高い電圧や大きな電流を扱うパワー半導体として実用化が始まっており、電気自動車のインバーターなどに採用例が出てきました。ただし、デジタル回路全体をシリコンから置き換えるほどの動きには至っていません。コストと集積度の壁が高いためです。

「半導体」という名前が生まれて190年あまり。中間にいるからこそ最強だった、というシリコンの逆説は、当面続きそうです。

参考・出典

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