燃料電池と電池は何が違うのか——「ためる」電池と、燃料を「もらい続ける」発電装置

燃料電池と電池は何が違うのか——「ためる」電池と、燃料を「もらい続ける」発電装置 科学

「燃料電池」という名前は、よく考えるとあちこちが妙です。電池と言うのに、コンセントにつないで充電することはできません。燃料と言うのに、その燃料を燃やしたりはしません。電池でも燃料でもあるような、どちらでもないような。落ち着きの悪い呼び名です。

それでもこの装置は、アポロ宇宙船を月まで支え、いまは住宅街の片隅で湯を沸かしています。名前のちぐはぐさを一つずつほどいていくと、普通の電池との境目が見えてきます。

充電できない「電池」

まず、普通の電池の話から。

乾電池でもスマートフォンのリチウムイオン電池でも、電気のもとになる物質は最初から中に封じ込められています。プラス極の材料とマイナス極の材料、その間をつなぐ電解質。反応する相手をぜんぶ、自分の中に抱えています。だから使えば中身は減る。使い切ったら終わりなのが乾電池のような一次電池、外から電気を流して反応を逆向きに戻せるのが、充電できる二次電池です。

燃料電池は、ここが違います。電気のもとになる水素を、外から供給し続ける。反応する物質をためておくのではなく、管をつないで送り込む構造です。だから「充電」という発想そのものがありません。燃料電池実用化推進協議会の解説でも、燃料電池は蓄電池ではなく、水素と空気を送り続けるかぎり発電を続ける装置だと説明されています。

燃やさない発電

もう一つの「燃料なのに燃やさない」も、なかなか妙です。

水素を空気中で燃やすと、酸素と結びついて水になります。化学式なら 2H₂ + O₂ → 2H₂O。ありふれた燃焼です。ところが燃料電池の中で起きているのも、結果だけ見れば同じで、できあがるのはやはり水。違うのは、その途中の通り道です。

火力発電は、燃料を燃やして熱をつくり、その熱で蒸気やガスを噴かしてタービンを回し、ようやく電気にします。中国電力の解説では、この流れが「化学エネルギー→熱→運動→電気」と段階を踏むのに対し、燃料電池は「化学エネルギー→電気」へ直接変換すると整理されています。間の熱と運動を、まるごと飛ばす。熱を経由する発電には原理的に超えられない効率の天井(カルノー効率の制約)がありますが、燃料電池はそこを通らないため、その縛りも受けません。

電気分解の逆

この仕組みが見つかったのは、意外にも19世紀の前半です。しかも、見つけた人はもともと科学者ではありませんでした。

ウィリアム・ロバート・グローブ。ブリタニカの伝記によれば、ウェールズ生まれの法律家で、1835年に弁護士資格を取り、のちには判事まで務めた人物です。健康を崩した時期に科学へ深入りし、1839年に「気体ボルタ電池(gas voltaic battery)」と呼ばれる装置を発表しました。これが燃料電池の出発点とされています。

着想は、逆回しでした。水に電気を流すと水素と酸素に分かれる——電気分解です。グローブが考えたのは、その逆でした。水素と酸素を反応させて水に戻すとき、電気が取り出せるのではないか。実際、白金の電極を希硫酸に浸し、上のほうを水素と酸素にさらすと、電流が流れました。電気を食って気体に分かれる装置を、気体から電気を生む装置へひっくり返したわけです。「燃料電池の父」と呼ばれるのは、これによります。

ただし、当時は実験室の珍品でした。電気が欲しければ発電機を回すほうが手軽で、グローブの装置がふたたび表に出てくるまでには100年あまりかかりました。

宇宙で水を飲む

燃料電池を本気で必要とした最初の現場は、宇宙でした。

実用への橋渡しをしたのは、イギリスの技術者フランシス・トーマス・ベーコンです。ケンブリッジ大学工学部の記事によると、彼は多孔質のニッケル電極と高濃度の水酸化カリウムを使うアルカリ型を磨き上げ、1959年には40セルでおよそ5キロワットを出す装置を実演しました。効率は70パーセントを超えていたといいます。

これにNASAが目をつけます。重い電池を山ほど積むより、燃料電池のほうがはるかに軽い。しかも、ありがたい副産物がついてきました。反応で出てくる「排出物」が、水だったのです。NASAのスピンオフ資料もケンブリッジ大の記事も、そろってこの点を書いています。アポロ計画ではプラット・アンド・ホイットニー製のアルカリ型が積まれ、飛行士たちはそこで生まれた水を飲んでいました。発電すれば飲み水ができる。宇宙船にとっては、これ以上ない性質です。ちなみに、それより前のジェミニ計画では別方式(固体高分子形)が使われています。

調べていて少し面白かったのは、地上では「効率はいいが扱いが難しい」ともてあまされていた装置が、水と電気をいっぺんに欲しがる宇宙という特殊な現場で、ようやく出番を得たことでした。

家のなかの燃料電池

そのうえで、いま燃料電池がいちばん身近に動いているのは、たぶん家の中です。「エネファーム」と呼ばれる家庭用の機械です。

東京ガスや大阪ガスの資料によれば、エネファームは2009年に世界で初めて売り出された家庭用の燃料電池でした。多くは固体高分子形(PEFC)という方式で、まず都市ガスから水素を取り出し、それを空気中の酸素と反応させて発電します。ガスを直接燃やすのではなく、いったん水素にしてから「反応させる」あたりが、いかにも燃料電池らしいところです。

家庭用ならではの工夫は、発電のときに出る熱を捨てない点にあります。大阪ガスの解説では、発電と同時に出る熱でそのまま湯を沸かすことで、火力発電所の効率がおよそ40パーセントなのに対し、エネファームは総合で80パーセント前後に達するとされています。自宅でつくるぶん、遠くの発電所から運ぶあいだの送電ロスもありません。

妙な名前のまま

名前は、結局のところ妙なままです。充電できない「電池」で、燃やさない「燃料」。それでも、反応する相手を外からもらい続ける開いた装置なのだと分かってしまえば、その呼び名にもいちおうの筋は通ります。19世紀の法律家がいじっていた仕掛けが、宇宙飛行士の水になり、いまは台所の脇で湯を沸かしている。

参考・出典

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