「砂漠」と聞いて思い浮かぶのは、地平線まで続く砂の海でしょうか。ラクダ、オアシス、見わたすかぎりの砂丘。けれど地理学でいう砂漠は、必ずしも砂のことではありません。ナショナルジオグラフィックの教育資料によれば、砂丘が占めるのは世界の砂漠のおよそ1割にすぎず、残りの大半は岩や礫がむき出しになった荒れ地です。
砂漠を決めているのは、見た目ではなく「乾き」です。一年を通してどれだけ雨が少ないか。ほぼその一点だけで、ある場所が砂漠かどうかが分かれます。
砂がなくても砂漠
おおまかな目安は、年間降水量がおよそ250ミリ以下であること。日本の年降水量が1,700ミリ前後ですから、その7分の1にも届きません。降る雨より蒸発で出ていく水のほうが多い——この収支の赤字が、植物の育ちにくい土地をつくります。
だから砂漠には、見た目のちがう顔があります。砂の広がる砂砂漠、岩盤がむき出しの岩石砂漠、小石に覆われた礫砂漠。陸地のおよそ5分の1が、なんらかの砂漠に分類されます。
意外なのは、世界でいちばん広い砂漠がサハラではないことです。降水量という物差しを当てると、南極大陸がその条件を満たしてしまう。サハラがおよそ900万平方キロなのに対し、南極は約1,400万平方キロ。一面の氷に覆われていても、水は雪という形でしかも年にごくわずかしか供給されないため、定義上は世界最大の砂漠ということになります。寒くて乾いた極地砂漠です。
砂漠はどうやってできるのか
砂漠ができる場所には、決まったパターンがあります。ナショナルジオグラフィックは、成因によって砂漠をおおきく五つに分けています。
いちばん典型的なのが、赤道から少し離れた緯度20〜30度あたりに帯のように並ぶ砂漠です。赤道で暖まった空気が上昇して激しい雨を降らせ、水分を出しきった乾いた空気が、緯度30度付近でゆっくり下りてくる。下降する空気のもとでは雲ができにくく、雨が降りません。サハラもアラビアも、この亜熱帯の高気圧帯の下にあります。
残りは、もう少し局地的な事情で乾きます。沖を冷たい海流が流れる海岸では、空気が冷やされて霧は出るのに雨にならない。南米のアタカマ砂漠が代表で、何年も雨の降らない観測点すらあります。山脈の風下では、湿った風が風上側で雨を落としきり、越えてきた頃にはすっかり乾いている。海から遠い大陸の内部は、湿った空気がたどり着く前に水を失う——中央アジアのゴビ砂漠がそうです。
いっぷう変わっているのが、南極や北極の極地砂漠です。雨が少ないだけでなく、わずかにある水も氷として閉じ込められ、生き物にはほとんど使えません。
「砂漠」と「砂漠化」は別物
ここで言葉を一つ、はっきり分けておきたいと思います。砂漠と砂漠化は、似ているようでまったく別の話です。
砂漠が「乾いた土地という状態」だとすれば、砂漠化は「土地が劣化していく進行中のできごと」です。国連広報センターに載った砂漠化対処条約事務局の堀幸恵氏の寄稿は、「砂漠化問題は、実は砂漠のことではない」のだと一般にはあまり理解されていない、と指摘しています。砂漠化とは、もとからの砂漠が広がることでも、砂が攻めてくることでもない。人が暮らし作物を育ててきた土地が、その力を失っていく現象です。
国連砂漠化対処条約(UNCCD)は、砂漠化を「乾燥地域、半乾燥地域および乾燥半湿潤地域における、気候の変動や人間活動を含むさまざまな要因による土地の劣化」と定義しています。1994年に採択され、1996年に発効した条約です。
ここはなかなか用心深いな、と感じた点があります。鳥取大学乾燥地研究センターの解説によれば、この条約が対象とするのは「年平均降水量を蒸発しうる量で割った値が0.05〜0.65の範囲」にある土地に限られ、サハラの中心のような極端に乾いた極乾燥地域は、はじめから外されています。もともと人の暮らしが成り立たないほど乾いた場所は、「劣化」させようがない。問題にされているのは、ぎりぎり緑を保ってきた土地が痩せていくことのほうです。
土地が痩せていく仕組み
では、なぜ土地は痩せるのか。要因は気候と人間活動の両方にまたがります。
気候の側では、地球規模の気候変動や、たびかさなる干ばつが土地を乾かしていく。人間活動の影響も大きく、家畜を増やしすぎる過放牧、休ませずに耕し続ける過耕作、燃料にする薪を取りすぎる薪炭材の採取——どれも、土を支える植物を奪っていきます。
見落とされがちなのが、灌漑のしかたによる塩害です。乾いた土地で水を引いて畑を潤すと、強い日ざしで水が蒸発し、溶けていた塩分だけが地表に残る。これを繰り返すうちに塩が積もり、白く乾いて作物が育たない土地になってしまう。よかれと思って引いた水が、かえって土地を使えなくすることがある。
やっかいなのは、これが貧困と結びついて悪循環になることです。土地が痩せれば収穫が減り、暮らしが苦しくなる。すると休ませる余裕もなく、いっそう土地を酷使するしかなくなる。劣化が貧困を生み、貧困がさらに土地を追いつめる。堀氏の寄稿によれば、アフリカでは1950年以降に農地のおよそ65%の土壌が劣化したとされ、2045年までに1億3,500万人もの人が砂漠化によって移住を迫られるおそれがあるといいます。
サヘルと「緑の長城」
その最前線が、サハラ砂漠の南の縁を東西に走るサヘルです。アラビア語で「岸辺」を意味する、半乾燥の帯。かつては草原が広がっていましたが、1960〜70年代の大干ばつを境に荒廃が深刻になりました。
ここで動き出したのが、グレート・グリーン・ウォール(緑の長城)という構想です。アフリカ連合の主導で2007年に始まり、セネガルからジブチまで大陸を横断して、約8,000キロにわたる緑の帯をつくろうという計画です。UNCCDによれば、いまでは22カ国が関わり、2030年までに1億ヘクタールの土地を回復させ、2億5,000万トンの炭素を吸収し、1,000万人の雇用を生み出すことを目標に掲げています。国立環境研究所がまとめた国連環境計画(UNEP)の報告でも、すでに10カ国以上で在来の植物による植林が進んでいるとされています。
ただ、壁のように木を植えれば終わり、という単純な話ではありません。植えた苗の多くが根づかずに枯れてしまうという報告もあり、近年は単なる植林ではなく、住民の暮らしごと土地を立て直す取り組みへと重心が移っています。UNCCDも、これ以上の劣化を増やさない「土地劣化の中立性(LDN)」を2030年までに実現することを目標に掲げています。
問題は砂漠ではなく、その縁
乾いた土地は地球にもとからあり、そこに適応した植物や動物、人の暮らしもあります。砂漠化が問題なのは、砂漠が悪いからではなく、緑を保てていた土地が人の手で乾いていくからです。
「砂漠とは何か」と問うと、つい砂丘の風景を思い浮かべます。けれど答えは見た目ではなく、雨の量のほうにありました。そして本当に気にかけるべきは、地図に砂漠と塗られた場所より、その縁でいま静かに進んでいる変化のほうなのかもしれません。
参考・出典
- 砂漠化対策(砂漠化する地球) | 環境省 自然環境局 https://www.env.go.jp/nature/shinrin/sabaku/index_1_5.html
- 砂漠化対処条約 | 鳥取大学乾燥地研究センター https://www.alrc.tottori-u.ac.jp/japanese/desert/jyouyaku.html
- The Great Green Wall Initiative | UNCCD(国連砂漠化対処条約) https://www.unccd.int/our-work/ggwi
- 寄稿「砂漠化について考える。日常を非日常にしないために。」(堀幸恵・UNCCD事務局) | 国連広報センター https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/24696/
- 国連環境計画、世界最大の環境修復プロジェクトの状況を報告 | 環境展望台(国立環境研究所) https://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=29347
- Desert | National Geographic Education https://education.nationalgeographic.org/resource/desert/


