海の色について、たいていの人は同じことを習った覚えがあるはずです。海が青いのは、青い空を水面が映しているから。理科の時間か、あるいは誰かの雑談で、そう聞いた記憶があります。言われてみればもっともらしい説明です。曇りの日の海が灰色に沈むのを見れば、なおさらそう思えます。
ところが、コップに水をくんでも青くはなりません。透明です。風呂に張った水も、透けて底が見えます。空を映しているだけなら、水そのものに色はないはずで、それはそのとおりに見える。では、あの海の青はどこから来るのでしょうか。
水そのものが、うっすら青い
先に答えを言ってしまうと、海の青の主役は反射ではありません。水そのものです。アメリカ地質調査所(USGS)は、水の青さについて「空を青くしているような光の散乱によるものではなく、水の分子が赤い光を吸収することによる」とはっきり書いています。純水は無色ではなく、じつはわずかに青い。ただ、その青はあまりに淡いので、コップ一杯くらいの短い距離では気づけないだけだ、というのです。
長い水の柱を通して見れば、その青が立ち上がってきます。3メートルほどの水を満たした管を覗くと、肉眼でも純水の青が確かめられる。米国立海洋大気庁(NOAA)も、海が青く見えるのは水が赤い光を吸収するからだと同じ説明をしています。つまり水は、当たった白い光のうち赤いほうを吸い取り、残った青を通したり返したりしている。海が深く水を重ねるほど、その効果が積み重なって濃い青になります。
同じことは、氷でも起きます。USGSは、氷河の氷が青く見える理由を「白い光の赤い成分が氷に吸収され、青い成分が透過・散乱されるため」と説明しています。氷の中を光が長く進むほど、青みが増していく。
赤い光はどこへ消えるのか
ここで一つ、素朴な疑問が出てきます。水はどうして、よりによって赤い光を吸うのでしょうか。
物質が色を持つとき、その多くは分子の中の電子が特定の光を受け取ることで起こります。植物の緑も、絵の具の赤も、おおむねそういう電子のしわざです。ところが水の色は、そこが少し変わっている。化学者のブラウンとスミルノフが1993年に発表した「Why is water blue?(水はなぜ青いのか)」という解説によれば、水が赤い光を吸うのは、電子ではなく水分子そのものの振動によるものだといいます。水分子のO−H結合が伸び縮みする振動が、赤から赤外にかけての光のエネルギーとうまく噛み合って、そこを吸収してしまう。可視光の色が電子ではなく振動から生まれる物質は、事実上これくらいしかない、と彼らは書いています。
正直なところ、色というと私は反射や電子のイメージしか持っていなかったので、水だけが振動で青いという話には少し意表を突かれました。しかも水の場合、その吸収は赤側に偏っている。長い波長ほど強く吸われ、短い青のあたりはほとんど吸われずに通り抜ける。ポープとフライが1997年に精密に測り直した結果では、純水の吸収が最も小さくなるのは波長418ナノメートルあたり、ちょうど青の領域でした。青は水にとって、いちばん通りやすい光なのです。
空の青とは、じつは別の話
ややこしいのは、空の青も海の青も、口では同じ「青」と言ってしまう点です。けれど中身は違います。
昼の空が青いのは、空気の分子が青い光を四方へ強く散らすレイリー散乱のためで、これは吸収ではありません。一方、海の青は水が赤を吸う吸収が出発点です。仕組みが違うのに結果の色が近いので、「海は空を映している」という説明とも地続きに聞こえてしまう。ここが通説のまぎらわしいところだと思います。
もっとも、両者はきれいに無関係というわけでもありません。赤を吸われて水の中に残った青い光は、最後は水分子などに散乱されて上へ戻り、目に届きます。海洋光学をまとめたカーティス・モブリーの資料でも、澄んだ外洋では水分子による散乱が海の色に無視できない寄与をすると説明されています。赤を吸うのが第一段、残った青が散って戻るのが第二段、という二段構えで捉えると誤解が少ない。
では空の反射はまったく効かないのかというと、そこまで言い切るのは行き過ぎです。ブリタニカは、晴れた日の海が青空を反射していっそう鮮やかな青になり、曇りの日は灰色に見えると述べています。水面が空の色を拾うのは確かで、見る角度によってはその寄与も小さくない。ただしそれは水面での出来事で、水の中を通り抜けてくる青とは、別の話です。
深さと色
水が赤から順に光を吸うという話は、潜っていくと色として体感できます。
海に差し込んだ光は、深くなるほど長い波長から順に失われます。ウッズホール海洋研究所(WHOI)の解説によれば、まず赤と橙が水深わずか数メートルで消え、続いて黄、そして緑が失われ、青紫がいちばん深くまで残る。だから水中で撮った写真は、深くなるほど赤みが抜けて青一色に寄っていきます。ダイバーが深場で切り傷を負うと、血が赤ではなく暗い緑や黒っぽく見える、という話も、赤い光がそこまで届いていないからです。
光そのものが届く限界も、そう深くはありません。NOAAによれば、海面から約200メートルより深いところにはほとんど光が届かず、約1000メートルより下は完全な闇になります。海の大部分は、色以前に光のない世界だということになります。
同じ水でも、浅い所と深い所で色が変わるのも、この吸収の積み重ねで説明がつきます。ブリタニカは、澄んだ海では青が最も深く浸透するため濃い青に、浅瀬では淡い青緑に見えると述べています。サンゴ礁の縁で、足元の水色から沖の紺へと色が段階的に変わっていくのは、水の深さ=光が通る距離が場所ごとに違うからでした。氷河の氷が場所によって濃く青いのも、圧し固められて結晶が大きくなり、光の通り道が延びるためだといいます。
緑や茶の海
ここまでは「澄んだ水」の話でした。現実の海には、いろいろなものが溶けたり漂ったりしていて、それが色を大きく動かします。
いちばん効くのが植物プランクトンです。彼らが光合成に使う色素クロロフィルは、青と赤の光を強く吸収し、緑を返します。澄んだ海の青は、もともと水が赤を吸って残した青でした。そこへプランクトンが増えると、今度はその青までクロロフィルに吸われ、残った緑がまさってくる。NASAの海洋観測ミッションPACEの解説でも、プランクトンが多い海域ほど水は青から緑へ寄っていくとされています。春先に海が緑がかって見えるのは、プランクトンが一気に増えるからです。
もう一つ、色を茶や黄に振るのがCDOM(有色溶存有機物)と呼ばれる物質で、枯れた植物などが分解してできる、いわば「薄い紅茶」のような成分です。川が運ぶ土砂や巻き上がった堆積物も、幅広い波長を散り返して水を濁った褐色や灰色にします。河口の海が濁って見えるのは、こうした持ち込まれた色のためです。
面白いのは、この「海の色が中身で変わる」性質を、人間が逆手に取っている点です。NASAは人工衛星から海の色を測り、緑がかって見える海域ほどプランクトンが多い、という読み取りに使っています。海の色は、そのまま海の中身の手がかりになります。
コップ一杯では透明な水が、深く重なるだけで青くなる。外洋は濃い青で、氷河は青く光り、河口は濁って見える。ばらばらに思えるこれらの色は、水が赤い光をどれだけ吸い、青がどれだけ残って戻ったか、という一つの物差しの上に並んでいます。海の青は、遠くの空から借りた色ではなく、水そのものが返している色でした。
参考・出典
- U.S. Geological Survey「Water Color」 https://www.usgs.gov/special-topics/water-science-school/science/water-color
- NOAA National Ocean Service「Why is the ocean blue?」 https://oceanservice.noaa.gov/facts/oceanblue.html
- U.S. Geological Survey「Why is glacier ice blue?」 https://www.usgs.gov/faqs/why-glacier-ice-blue
- Woods Hole Oceanographic Institution「Why is the ocean blue?」 https://www.whoi.edu/ocean-learning-hub/ocean-facts/why-is-the-ocean-blue/
- NASA PACE / Ocean Sciences「How Does the Ocean Interact With Light」 https://pace.oceansciences.org/ocean_light.cgi
- Curtis D. Mobley「Ocean Optics Web Book: Water」 https://www.oceanopticsbook.info/view/optical-constituents-of-the-ocean/water
- Charles L. Braun and Sergei N. Smirnov「Why is water blue?」Journal of Chemical Education, 1993 https://www.webexhibits.org/causesofcolor/ref/Braun-Smirnov.html
- Pope R. M. and Fry E. S.「Absorption spectrum of pure water」Applied Optics, 1997 https://omlc.org/spectra/water/abs/pope97.html
- Encyclopædia Britannica「Why Is The Ocean Blue?」 https://www.britannica.com/science/Why-Is-The-Ocean-Blue


