宇宙から帰ってくる船が、炎に包まれて夜空を走る。あの光景はたいてい、「空気との摩擦で燃えている」と説明されます。理科の授業でも、そう習った覚えがある人は多いはずです。
ところが、これは正しくありません。ついでに言えば、「進入角度が浅いと大気に弾かれてしまう」というよく聞く説明も、厳密には違います。身近でよく知られた現象ほど、ざっくりした説明のまま広まっていることがあります。
燃やすのは摩擦ではない
真空の宇宙から、秒速7〜8キロメートルという猛烈な速さで大気へ突っ込む。すると、機体の前方にある空気は逃げ場を失い、一気に押し縮められます。圧縮された空気は猛烈に熱くなる。これが断熱圧縮です。JAXAの解説はわざわざ、「これはこすって熱くなるような摩擦熱ではない」と念を押しています。機体の前にできる衝撃波の中で、空気は数千度から、ときに1万度を超えるまで熱せられ、分子はばらばらになってプラズマと化します。
意外なのは、その熱の行き先です。JAXA航空技術部門のコラムによれば、再突入で失われるエネルギーのうち、99パーセントくらいは飛行経路に沿った空気を熱くするのに使われ、機体に入ってくるのは残りの1パーセントほど。しかもそのうちの大半は赤外線として機外へ逃げ、最終的に機体の内側まで届くのは全体の0.3パーセントほどだといいます。
鈍頭という逆説
速い乗りものほど、先端を鋭く尖らせたくなります。新幹線も戦闘機もそうです。ところが再突入する機体の多くは、お椀を伏せたように丸く鈍い。1951年、NACA(NASAの前身)のH・ジュリアン・アレンとA・J・エッガースが見つけたのは、「鈍い形のほうが熱に強い」という逆説でした。鈍い機体は強い離脱衝撃波をつくり、熱くなった空気の層を機体の前へ押しのけます。尖らせると衝撃波が機体に貼りついて熱が集中してしまうのに対し、鈍くすると熱はそのまま空気側に残り、機体の脇を流れて去っていく。アポロもソユーズも、はやぶさの回収カプセルも、この鈍頭です。あまりに重要だったのか、当初この発見は軍事機密として伏せられ、公表は1958年でした。
調べていて面白かったのは、「速さに打ち勝つには鋭く尖らせる」という、ふだん正しそうに思える直感が、ここではきれいに裏返ることでした。
再突入コリドー
もう一つの誤解、「浅い角度だと弾かれる」のほうも見ておきます。
石を水面に投げると、浅い角度では何度も水面を跳ねます。あのイメージで再突入を語る説明をよく見かけます。けれど、宇宙開発のQ\&Aサイト Aerospaceweb の解説によれば、カプセル型の宇宙船は揚力がほとんどないので、水切りの石のように文字どおり「跳ね返る」わけではありません。実際に起きるのは、こうです。進入角が浅すぎると空気抵抗が足りず、十分に減速できないまま、地表へ降りる軌道に乗れずに宇宙へ抜けてしまう。逆に急すぎれば、短い時間で一気に減速して、Gと加熱が一気に跳ね上がり、燃え尽きてしまう。
許される進入角の幅は、おどろくほど狭い。この細い帯を再突入コリドーと呼びます。誘導がほんの少しずれただけで、抜けるか燃えるかのどちらかに振れてしまう。
アブレーターと耐熱タイル
それでも機体は、避けようのない熱をいくらか浴びます。たまった運動エネルギーは、最後はどうしても熱に変わるからです。問題は、それをどうやって機体から逃がすか。大きく二つの流儀があります。
一つはアブレーター。表面の耐熱材をわざと溶かし、蒸発させてしまう方式です。分解して出たガスが熱を運び去り、機体の中まで熱を通さない。はやぶさの回収カプセルは炭素繊維強化プラスチックのアブレーターで覆われ、秒速およそ12キロメートル、1万度を超える環境を耐え抜きました。一度きりの使い捨てですが、確実です。
もう一つは耐熱タイル。スペースシャトルが採ったシリカ繊維のタイルは、体積の9割以上が空気という、スカスカの断熱材です。空気は熱を伝えにくいので、表面が灼けても内側まで熱が回らない。燃やして捨てるアブレーターと違って、繰り返し使えるのが強みでした。1200度に熱した直後でも角を素手でつまめる、という実演がよく知られています。
まっすぐ落ちるか、滑るか
姿勢を制御せず、ただ弾道を描いて落ちてくる弾道再突入は、構造が単純です。ただし減速のGがきつく、8〜13Gにも達します。これに対して、機体にわずかでも揚力を持たせると、ずいぶん事情が変わります。揚力があれば、空気の薄い高い高度を長めに飛べるので加熱がやわらぎ、乗員にかかるGも下げられる。ソユーズの再突入は通常4〜5Gほどです。アポロもソユーズも、重心を少しずらして揚力を生み、降りる地点をある程度たぐり寄せていました。スペースシャトルはさらに進めて、翼で滑空までしてみせた機体です。同じコラムによれば、揚抗比はカプセル型でおよそ0.3、シャトルで約1.0。ちなみに巡航中の旅客機は約15ですから、シャトルでさえ「ほとんど滑らない」部類ではあります。
際どい帰り道
大気圏再突入が難しいのは、軌道速度ぶんの莫大なエネルギーを、狭い角度の通り道のなかで、熱として捨てきらなければならないからです。はやぶさの回収カプセルが1万度を超える環境をくぐり抜けながら、内側に貼られたステッカーを無傷のまま持ち帰った、という話があります。あの一見あらっぽい炎が、実はずいぶん精密に飼いならされた現象なのだと気づかされます。
参考・出典
- 地球の大気圏に突入した宇宙船は、たいへん厳しい熱に曝されます。この熱はどうして発生するのでしょうか | JAXA 有人宇宙技術部門 https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000748.html
- 再突入機のエネルギーはどこに行った?〜熱の捨て方〜 | JAXA航空技術部門 https://www.aero.jaxa.jp/topics/column/0223.html
- 再突入と翼-翼は着陸のため?- | JAXA航空技術部門 https://www.aero.jaxa.jp/topics/column/0240.html
- 「はやぶさ」とは|再突入カプセルと空力加熱 | JAXA宇宙教育センター https://edu.jaxa.jp/contents/other/spaceinf/hayabusa/about/principle3.html
- Atmosphere & Spacecraft Re-entry | Aerospaceweb.org https://aerospaceweb.org/question/spacecraft/q0218.shtml
- Reentry thermal protection | The Worlds of David Darling (Encyclopedia of Science) https://www.daviddarling.info/encyclopedia/R/reentry_thermal_protection.html
- Atmospheric entry | Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Atmospheric_entry


